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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)3号 判決

東京都港区芝五丁目7番1号

原告

日本電気株式会社

代表者代表取締役

金子尚志

訴訟代理人弁護士

野村晋右

茂木龍平

同 弁理士

鈴木康夫

大阪府大阪市北区天神橋三丁目2番28-404号

被告

株式会社アド・コミュニケーション

代表者代表取締役

大西良隆

訴訟代理人弁護士

小松陽一郎

池下利男

村田秀人

主文

特許庁が平成8年審判第21666号事件について平成9年11月21日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

主文と同旨の判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

被告(審判被請求人)は、考案の名称を「カラオケ装置」とする登録第2066168号実用新案(この登録に係る考案を、以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。なお、本件考案は、被告代表者によって昭和59年10月19日に登録出願され、平成7年6月25日に実用新案権設定の登録がされたものであって、被告は平成7年9月20日に同実用新案権の移転を受けたものである。

原告は、平成8年12月27日に本件考案の実用新案登録を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、これを平成8年審判第21666号事件として審理した結果、平成9年11月21日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年12月15日にその謄本を原告に送達した。

2  本件考案の実用新案登録請求の範囲

伴奏音楽と該伴奏に対応する歌詞画像が一体的に記録された記録媒体から音楽信号と映像信号を読み取って伴奏音楽と歌詞映像を再生する伴奏・歌詞再生装置と、背景映像が予め格納された記録媒体から映像信号を読み取って動画像である背景映像を再生する背景映像再生装置と、前記伴奏・歌詞再生装置から出力された歌詞映像を前記背景映像再生装置から出力された動画像である背景映像に重ねる為のミクサーと、該ミクサーから出力された映像信号を受けて動画像である背景映像と歌詞映像との合成映像を表示する受像器とからなり、伴奏音楽を演奏すると同時に該伴奏音楽に対応する歌詞映像を受像器に写し出し、適宜、好みの背景映像を選択して受像器の受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなるカラオケ装置。

3  審決の理由の要点

別紙審決書の理由写しのとおり(審決における甲第1号証の特許公報を以下「先願明細書」といい、先願明細書記載の発明を以下「先願発明」という。)

4  審決の取消事由

審決は、先願発明の技術内容を誤認した結果、本件考案と先願発明との同一性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)審決は、本件考案が「背景映像を入れ替えるのに、適宜、好みの背景映像を選択するものである」のに対して、先願発明は「適宜、好みの背景映像を入れ替えているものか否か明確でない」ことのみを論拠として、本件考案と先願発明との同一性を否定したものである。

審決の先願発明に関する上記説示は、背景映像を適宜に選択できるか否か不明であるという趣旨と解される。

しかしながら、先願明細書の「再生装置2は(中略)ビデオディスクの任意の位置から再生を開始する。」(3頁左上欄15行ないし18行)、「テロップのない映像を適宜かえることにより、リクエストするたびに、同じテロップでもバックの映像が相違する映像をつくることができる。すなわち、同一曲を繰り返しリクエストしても、再生装置2のビデオディスクを前回リクエストした時に再生した映像とは異なる映像が記録されたところから再生を開始させたり、あるいは、ビデオディスクを交換して、新しい内容のビデオディスクを再生することによって、リクエストするたびに、同じテロップでもバックの映像が相違する映像をつくることができる。」(3頁右下欄6行ないし16行)との記載によれば、先願発明の要件である第2の映像が、適宜に選択できるものであることは明らかである。このことは、先願明細書の第2図(制御装置の操作部分。別紙図面参照)に「ディスク挿入」、「映像選択」、「ディスク取出し」の各表示がされていることからも、疑いの余地がない。

(2)この点について、審決は、先願明細書には「前回リクエストしたときに再生した映像とは異なる映像が記録されている所から再生させたり、あるいはビデオディスクを交換して新しいビデオディスクを再生することは記載されているが、それを行うのは誰なのか(歌い手側あるいはシステム側)が明確でない。」、「歌い手側の意志が入らない(好みを反映しない)で一方的に背景映像をながしているとも解することができ、(中略)好みの背景映像を選択するものである点まで明確に記載されているということはできない。」と説示している。

しかしながら、これらの説示は、先願明細書の前記記載に照らせば誤りであり、少なくとも、「ビデオディスクを交換」することは、歌い手等が「適宜、好み」に応じて行わざるをえないから、審決の上記説示が失当であることは明らかである。

この点について、被告は、ビデオ再生装置が自動的にビデオディスクを交換することが可能である旨主張するが、先願明細書には、第2のビデオ再生装置がそのような構成に限定されることは示唆すらされていない。

第3  被告の主張

原告の主張1ないし3は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は、正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  原告は、先願明細書の記載を援用して、先願発明の要件である第2の映像が適宜に選択できるものであることは明らかである旨主張する。

しかしながら、原告が援用する先願明細書の各記載は、歌い手等がどのような手段によって第2の映像の再生開始位置を選択するのか、何ら明らかにしていない。そして、先願発明の要件である第2の映像は、「再生装置1で用いるビデオディスクの曲の内容とは無関係である映像であり、テロップのない一連の映像(例えば、ストーリーのない風景だけの映像)である」(2頁左下欄5行ないし8行)から、歌い手等が選択するまでもないものと考えるべきである。

この点について、原告は、先願発明の要件である第2の映像が適宜に選択できるものであることは、先願明細書の第2図に「ディスク挿入」、「映像選択」、「ディスク取出し」の各表示がされていることからも疑いの余地がない旨主張する。

しかしながら、これらの表示は、「コイン投入」、「選曲をどうぞ」、「Sボタン押す」と同列に表示されていることからすれば、制御装置の作動内容を順次表示するものであって、歌い手等が操作するものではない(歌い手等がディスク挿入口にディスクを挿入し、操作ボタン10によって選曲をすれば、再生装置が自動的に映像を選択する)と解すべきであるから、原告の上記主張は失当である。

2  また、原告は、少なくとも「ビデオディスクを交換」することは歌い手等が行わざるをえない旨主張する。

しかしながら、ビデオ再生装置が自動的にビデオディスクを交換することも当然可能であるから、原告の上記主張も失当である。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本件考案の実用新案登録請求の範囲)及び3(審決の理由の要点)は、被告らも認めるところである。

第2  甲第4号証(実用新案公報)によれば、本件考案は、従来のカラオケ装置が背景映像と歌詞とを同一のビデオディスクに記録しているため、背景映像の変化に乏しいことを解決すべき課題と捉え(1欄25行ないし2欄1行)、これを解決するために、歌詞の映像と背景映像とを別個の記録媒体に記録しておき、各記録媒体から映像を別々に取り出し合成することによって、ある歌詞に対する背景映像を任意に選択できるような構成(3欄5行ないし9行)を採用したものと認められる。

第3  原告は、先願発明の要件である第2の映像が適宜に選択できるものであることは明らかである旨主張する。

1  検討すると、甲第3号証によれば、先願明細書には次のような記載が存在することが認められる。

a  「本発明は(中略)同一曲をリクエストするたびに映像の種類を変えて再生することができるビデオ再生装置に関するものである。」(1頁左下欄19行ないし右下欄1行)

b  「再生装置2は(中略)ビデオディスクの任意の位置から再生を開始する。」(3頁左上欄15行ないし18行)

c  「テロップのない映像を適宜かえることにより、リクエストするたびに、同じテロップでもバックの映像が相違する映像をつくることができる。すなわち、同一曲を繰り返しリクエストしても、再生装置2のビデオディスクを前回リクエストした時に再生した映像とは異なる映像が記録されたところから再生を開始させたり、あるいは、ビデオディスクを交換して、新しい内容のビデオディスクを再生することによって、リクエストするたびに、同じテロップでもバックの映像が相違する映像をつくることができる。」(3頁右下欄6行ないし16行)

これらの記載によれば、先願発明の要件である第2の映像は、適宜に選択できるものであると解するのが相当である。

また、カラオケ装置のビデオディスクは、通常、歌い手等が適宜に選択して交換していることはいうまでもない。したがって、上記cの記載におけるビデオディスクの交換について、新たなディスクが常に機械的に決定され、歌い手等の意志が全く反映されない構成のみを想定するのが不自然であることは明らかである。

2  この点について、被告は、先願発明の要件である第2の映像はリクエスト曲に無関係な映像であるから、歌い手等が選択するまでもないものである旨主張する。

検討するに、先願発明の要件である第2の映像が常に機械的に決定され、歌い手等の意志が全く反映されないものであるとすると、例えば「夏の海」を歌う歌詞及び伴奏に対して「冬の山」の映像が背景として現れ、「日本の民謡」の歌詞及び伴奏に対して「西欧の街並み」の映像が背景として現れるような、奇妙な事態が頻繁に生ずることは明らかである(審決の、先願発明は「歌い手側の意志が入らない(好みを反映しない)で一方的に背景映像をながしているとも解することができ」るとの説示は、このような事態を想定していると考えられる。)。

しかしながら、そのようにちぐはぐな画面を頻繁に呈するカラオケ装置が実用に耐えないことは当然であって、先願発明がそのような不合理な事態をあえて容認している技術的思想であると考えるべき理由はない。したがって、先願発明の特許請求の範囲における「リクエスト曲に無関係な映像である第2の映像信号」との記載は、第2の映像が歌い手等が選択するまでもないものであるとする論拠にはなりえないというべきである。

3  なお、被告は、先願明細書には歌い手等がどのような手段によって第2の映像の再生開始位置を選択するのかを明らかにする記載が存在しない旨主張する。しかしながら、甲第4号証によれば、本件考案の願書添付の明細書においても、好みの背景映像を選択する手段については、単に実施例の説明として、「背景映像再生装置2にテープまたはディスクをセットし、任意に背景となる映像を選定する。」(3欄32行ないし34行)と記載されているにすぎないことが認められる。したがって、本件考案の要件である背景映像(先願発明の要件である第2の映像)を適宜に選択する手段は、当業者にとっては単純な設計事項にすぎないと解されるから、先願明細書に第2の映像の再生開始位置を選択する手段が記載されていないことも、先願発明の要件である第2の映像が適宜に選択できないものであるとする論拠にはなりえないのである。

4  以上のとおりであるから、先願発明の要件である第2の映像が適宜に選択できるものと認められないことのみを理由として、本件考案と先願発明との同一性を否定した審決の認定判断は、誤りであって、審決は違法なものとして取消しを免れない。

第4  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年4月8日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

別紙図面

〈省略〉

第1図は本発明の一実施例になるビデオ再生装置の構成を示すブロック図、第2図は制御装置3の操作部分の一例を示す図、第3図は制御装置3が再生装置1.2を制御することを説明するブロック図、第4図は映像合成装置4で合成された合成ビデオ信号の映像を示す図であり、同図(A)は再生装置1からのビデオ信号の映像、同図(B)は再生装置2からのビデオ信号の映像、同図(C)は再生装置1.2の映像を合成した映像を示す図である.

1.2…第1および第2のビデオ再生装置、3…制御装置、4…映像合成装置、5…テレビジョン装置5、6…オーディオアンプ、7…スビーカ、8…ビデオカメラ、9…マイク、10…操作ボタン、11…ディスクリイド表示部、

12…   図交  表示部、13…制御部(CPU).

請求人は、本件考案は、本件考案の出願前の出願である特願昭59-100149号(特開昭60-244169号)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であるので、実用新案法第3条の2の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、同法第37条第1項により無効とすべきであると主張し、証拠方法として、甲第1号証(特願昭59-100149号(特開昭60-244169号公報))、甲第2号証(実願昭第56-94736号の明細書及び図面、並びに実開昭57-23668号公報)、甲第3号証(特開昭55-26792号公報)、甲第4号証(特開昭59-167887号公報)を提出している。

3、甲各号証

(1)甲第1号証

請求人が本件考案と同一の発明が記載されていると主張している先願明細書である甲第1号証(特願昭59-100149号(特開昭60-244169号公報))に記載されている事項について検討する。

その公開された公報(上記特開昭60-244169号)の特許請求の範囲には、「リクエスト曲に応じた第1の映像信号及びリクエスト曲に応じた音声信号を再生する第1のビデオ再生装置と、リクエスト曲に無関係な映像である第2の映像信号を再生する第2のビデオ再生装置と、前記第1の映像信号と前記第2の映像信号とを合成し第3の映像信号を形成する映像合成装置と、リクエスト時、前記第1のビデオ再生装置の再生状態に応じて前記第2のビデオ再生装置を再生状態にすると共に、前記第2の映像信号を再生させて前記映像合成装置から前記第3の映像信号を出力させる制御を行う制御装置とからなるビデオ再生装置」が記載され、このビデオ再生装置がカラオケ装置であること(上記公報2頁上段左欄8乃至10行目)、また、発明の解決すべき問題点が、同じ曲を何回リクエストしても同じ映像しか再生できず、映像再生の面で単調さ(上記公報1頁下段左欄12乃至13行目)であることが記載されている。

そして、上記公報3頁下段右欄4乃至16行目には「このように、テロップだけの映像とテロップのない映像とを合成してテロップの入った新しい映像をつくるのである。そしてテロップのない映像を適宜かえることにより、リクエストするたびに、同じテロップでもバックの映像が相違する映像をつくることができる。すなわち、同一曲を繰り返しリクエストしても、再生装置2のビデオディスクを前回リクエストしたときに再生した映像とは異なる映像が記録されたところから再生を開始させたり、あるいは、ビデオディスクを交換して、新しい内容のビデオディスクを再生することによって、リクエストするたびに、同じテロップでもバックの映像が相違する映像をつくることができる。」と記載されている。この記載からは、リクエストしたときに再生した映像とは異なる映像が記録されている所から再生させたり、あるいはビデオデイスクを交換して新しいビデオディスクを再生することは記載されているが、それを行うのは誰なのか(歌い手側あるいはシステム側)が明確でない。この点に関して、請求人は、審判請求書6頁19乃至33行目において「先願発明(1)のカラオケ装置は、リクエストするたびに、同じテロップでもバックの映像が相違する映像をつくることができるものであり、特に、その態様について、「テロップのない映像を適宜かえること」により、リクエストするたびに、同じテロップでもバックの映像が相違する映像をつくることができるというものであるから、先願明細書には本件考案と同一の技術思想が開示されている。更に、バックの映像をかえる具体的な方法として、ビデオ再生装置2のビデオディスクの再生において、「前回リクエストしたときに再生した映像とは異なる映像が記録されたところから再生を開始させる」こと、あるいは「ビデオディスクを交換して新しい内容のビデオディスクを再生する」ことが記載されているから、先願発明(1)のカラオケ装置も、「伴奏音楽を演奏すると同時に該伴奏音楽に対応する歌詞映像を受像機に写し出し」、その際、「適宜」、「背景映像を選択して受像機の受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなる」ものであることにかわりはない。そして、バックの映像をかえることができるということ、すなわち背景映像の選択が可能であるということは、好みの背景映像を選択することも可能であるということができる。」と主張している。しかし、リクエスト時にどのように第2のビデオ再生装置を再生させるかについて、上記公報3頁上段左欄15乃至18行目に「再生装置2はこのコマンドコードを受けた後、スタンバイ状態から再生状態となされ、ビデオディスクの任意の位置から再生を開始する。」との記載しかなく、また、上記再生装置2で用いるビデオディスクに収録しているものとして、上記公報2頁下段左欄5乃至8行目に「再生装置1で用いるビデオディスクの曲の内容とは無関係である映像であり、テロップのない一連の映像(例えば、ストーリーのない風景だけの映像)である。」とする記載を参照すると、歌い手側の意志が入らない(好みを反映しない)で一方的に背景映像をながしているとも解することができ、先願明細書には背景映像をかえることができるという点は開示されているということができるが、好みの背景映像を選択するものである点まで明確に記載されているということはできない。

してみると、上記先願明細書には次のような発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているということができる。

リクエスト曲に応じた第1の映像信号及びリクエスト曲に応じた音声信号を再生する第1のビデオ再生装置と、リクエスト曲に無関係な映像である第2の映像信号を再生する第2のビデオ再生装置と、前記第1の映像信号と前記第2の映像信号とを合成し第3の映像信号を形成する映像合成装置と、合成した映像信号を表示するテレビジョン装置とを有し、リクエスト毎に背景映像を入れ替えてなるようにしたビデオ再生装置。

(2)甲第2乃至第4号証

甲第2号証(実願昭第56-94736号の明細書及び図面、並びに実開昭57-23668号公報)には、好みのチャンネルの放送を受信しながら、他のチャンネルで放送されている文字放送を画面に重畳してみることができる文字放送受信アダプターが記載されている。

甲第3号証(特開昭55-26792号公報)には、教育あるいは娯楽の分野で、ビデオテープのビデオ信号とテレビゲームのパターン信号とを同時にテレビジョン受像機に画像表示できるテレビジョン画面表示装置が記載されている。

甲第4号証(特開昭59-167887号公報)には、テレビジョン画面に楽譜及び歌詞を重ねて表示したり、楽譜の表示をタイミング信号にしたがって、順次色を変化させるなどの表示を行うことができるテレビジョン音楽演奏時の楽譜表示方法が記載されている。

4、対比・判断

本件考案と甲第1号証に記載された先願発明を比較すると、甲第1号証の「第1のビデオ再生装置」、「第2のビデオ再生装置」、「映像合成装置」、「テレビジョン装置」、「ビデオ再生装置」は、本件考案の「伴奏・歌詞再生装置」、「背景映像再生装置」、「ミクサー」、「合成映像を表示する受像機」、「カラオケ装置」にそれぞれ相当するので、本件考案と先願発明のものとは、伴奏音楽と該伴奏に対応する歌詞画像が一体的に記録された記録媒体から音楽信号と映像信号を読み取って伴奏音楽と歌詞画像を再生する伴奏・歌詞再生装置と、背景映像が予め格納された記録媒体から映像信号を読み取って動画像である背景映像を再生する背景映像再生装置と、前記伴奏・歌詞再生装置から出力された歌詞映像を前記背景映像再生装置から出力された動画像である背景映像に重ねる為のミクサーと、該ミクサーから出力された映像信号を受けて動画像である背景映像と歌詞映像との合成映像を表示する受像機とからなり、伴奏音楽を演奏すると同時に該伴奏音楽に対応する歌詞映像を受像機に写し出し、背景映像を入れ替えてなるカラオケ装置である点で一致し、本件考案のものが、背景映像を入れ替えるのに、適宜、好みの背景映像を選択するものであるのに対し、先願発明のものは、適宜、好みの背景映像を入れ替えているものか否か明確でない点で相違している。そして、本件考案はこの点で明細書記載の同じ伴奏曲でも歌い手の好みに応じた背景映像を選択することが可能であるという効果を奏するものである。

以上のとおりであるから、本件考案は、先願発明と同一ということはできない。

また、請求人は、本件考案の構成要件である、「適宜、好みの背景映像を選択して」との一連の文言が、先願明細書である甲第1号証に記載されていないとしても、本件考案は、甲第2号証乃至甲第4号証記載の周知技術を単に付加、転換したものにすぎないと主張しているが、上記甲第2号証乃至第4号証のものはいずれも、カラオケ装置において、適宜、好みの背景映像を選択するものではないので、その主張に根拠はない。

5、むすび

したがって、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件考案の登録を無効とすることはできない。

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